川崎市高津区のマンションで自殺志願の女性を殺害したとして嘱託殺人容疑で逮捕された自殺サイト開設者は、男なのにインターネットの匿名性を利用して女性と名乗るなど実像を隠していた。ネット上には自殺サイトなどの有害サイトがはんらんするが、事件として捜査するのは難しく、監視対象となっているのもわずかだ。
地球裁定、森村誠一さんの長編推理小説(偽造の太陽)は、強盗を企てた男が相棒を捜し求め、見ず知らずの男を仲間に引き入れる場面から始まる。パチンコ店では隣の席を選んで座り、競馬場では偶然を装って声をかけ、顔見知りになったところで酒場に誘い、あんたを見込んで話がある、と切り出す。(話した後で断られると困るんだ、、、大金もうけのチャンスがあるんだよ)32年前の小説である。インターネットが登場する以前、未知の他人同士が犯罪で結びつくにはこれだけの手間隙を要した。今は手間隙なし、ほんの思いつきの企てが即座に邪悪な実を結ぶ時代である。ネットの闇サイトで知り合った3人の男が女性を拉致し、殺害した名古屋市の事件につづいて、今度は自殺サイトが舞台の嘱託殺人という。面識のない自殺志願者の頼みを聞き入れ、手に掛けた千葉県市原市の電気工が逮捕された。表現の自由を守ること。有害情報から社会を守ること。その二つのあいだに法律上ぎりぎりの接合面を見つけることなしにはもはや、(防犯)など絵空事にすぎないと、あいつぐ異常な事件が教えている。小説の題名(偽造の太陽)とは、金銭であったり、名声であったり、快楽であったり、犯罪によって満たされる欲望を指している。インターネットを偽造工場にしてはならない。
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